目 次
㉜『第三次世界大戦はもう始まっている』エマニュアル・トッド著、文春新書
㉛『陸・海・空 究極のブリーフィング』小川清史、伊藤俊幸、小野田治、桜林美佐、倉山満、江崎道朗 共著
㉚『ウイグル人と民族自決』サウト・モハメド、集広舎
㉙『ウイグル人という罪』清水ともみ、福島香織著、扶桑社
㉘『光陰の刃』西村健著、講談社文庫
㉗『負け戦でござる。』小野剛史著、花乱社
㉖『「明治十年丁丑公論」「痩我慢の説」』福澤諭吉著、講談社学術文庫
㉕『福翁自伝』福澤諭吉著、岩波文庫
㉔『連帯綾取り』三浦隆之著、海鳥社
㉓『管子』松本一男訳、経営思潮研究会
㉒『遥かなる宇佐海軍航空隊』今戸公徳著、元就出版
㉑『宇佐海軍航空隊始末記』今戸公徳著、光人社
⑳『維新の残り火・近代の原風景』山城滋著、弦書房
⑲『いのちの循環「森里海」の現場から』田中克監修、地球環境自然学講座編、花乱社
⑱『ちいさきものの近代 Ⅰ』渡辺京二著、弦書房
⑰『天皇制と日本史』矢吹晋著、集広舎
⑯『インテリジェンスで読む日中戦争』山内千恵子 ワニブックス(「月刊日本11月号掲載)
⑮『大衆明治史 (上)建設期の明治』菊池寛著、ダイレクト出版
⑭『木村武雄の日中国交正常化 王道アジア主義者石原莞爾の魂』坪内隆彦著、望楠書房
⑬『振武館物語』白土悟、集広舎
⑪『大アジア』松岡正剛著、KADOKAWA
⑩『人は鹿より賢いのか』立元幸治 福村出版
⑨『人口から読む日本の歴史』鬼頭宏著、講談社学術文庫
⑧『データが示す福岡市の不都合な真実』 木下敏之著、梓書院
⑦『インテリジェンスで読む日中戦争』山内智恵子著、江崎道朗監修、ワニブックス
⑥『孫子・呉子・尉繚子・六韜・三略』訳者村山孚、経営思潮研究会
⑤『シルクロード』安部龍太郎著、潮出版社
④『日本人が知らない近現代史の虚妄』江崎道朗著、SB新書
③『漢民族に支配された中国の本質』三浦小太郎著、ハート出版
②『台湾を目覚めさせた男』木村健一郎著、梓書院
①『緒方竹虎と日本のインテリジェンス』江崎道朗著、PHP新書
㉓『管子』松本一男訳、経営思潮研究会
・百家争鳴、諸子百家の先輩の言葉
本書は孔子(紀元前552~紀元前479)が生まれる前の斉の宰相・管仲の言葉を集めたもの。管仲といえば、今も諺として遺る「管鮑の交わり」の管仲のことだ。斉の国が後継者を巡って分裂し、管仲と鮑叔はそれぞれ親友でありながら敵味方に分かれた。そして、敗者の側の管仲は鮑叔の薦めで勝者となった斉の桓公に仕え、群雄割拠の時代、斉を強国に仕立て上げた。
その管仲が説いた「大匡」「中匡」「牧民」「形勢」「権修」「立政」「乗馬」「軽重」「重令」「法令」「五輔」「七法」「枢言」「覇言」「小称」という十五編で構成されている。「牧民」に示される十一経(十一の原則)は、農業を主体とする時代の統治について述べている。いわば農本主義の基本ともいうべきもの。「立政」における「九つの邪説」は、管仲による対立する思想家の考えを簡略に否定する事々が記してあり、興味深い。「非戦論」「兼愛思想」「無為長生の思想」「民本思想」「多数決主義」「情実万能」が批判の中心になるが、百家争鳴の一端といってもよい。「乗馬」において傾聴に値するのは、「需給バランスの調整ができないのは、道を守っているとはいえない」という主張だ。六里四方の土地を「社」という単位にまとめ、「社」の中心に「村」があり、「央」という場所に「市」が立つという考え。民の生活を安定させる考えだが、これは開発、再開発と称して出たとこ勝負を進める為政者に聞かせたい内容だ。「軽重」では、通貨の統一(価値の統一、量目の統一)が国の統一につながり、このことは、災害時での税負担の公平性を保つことができるという事例も紹介されている。昨今、仮想空間での通貨の取引が盛んだが、この仮想通貨は税負担の公平性という観点からすれば利得者を増長させる手段でしかなくなる。「七法」においては、物質的な基礎を作る、いわゆる衣食住の確保、提供が国防上の必勝の条件であると説く管子の思想は、盤石の防衛体制を構築する基本が国家国民の生活の安定にあることを示しているのは傾聴すべきことだ。
そして、「枢言」での「凡そ国の亡ぶるや、その長ずる者(為政者)を以てなり」という言葉は、現今日本の為政者には耳が痛い事だろう。他国を侵略もしない、させない、原理原則は「徳義」と『管子』は説く。果たして、現今日本の為政者、似非人権擁護者らは「徳義」という言葉の意味を理解できるだろうか。為政者にとって耳の痛い忠告の書ともいうべき内容だが、もし、この『管子』が日本にも普及していたならば、近代日本においてマルクス経済主義などという主義は蔓延しなかったのではと考えることがある。
とはいえ、本書の最終では、末期の床にある管仲が桓公に忠告した話が紹介される。賢人の策を実行しなかったために、桓公は臣下に殺される。政治の頂点に立つ者は、いかにあるべきかを明示した話で締めくくられる。中国古典を再学習するという傾向がみられるが、戦国ならぬ波乱の時代を迎えたということなのだろう。
⑥『孫子・呉子・尉繚子・六韜・三略』訳者村山孚、経営思潮研究会
・今こそ読み解かなければならない兵法書
本書は「武経七書」と言われる兵法書のうち、『司馬法』『李衛公問対』を除く五書で構成されている。なかでも、孫子、呉子は「孫呉の兵法」として現代に至るも尊重する人は多い。兵法書は思想、人間分析の集大成であり、人類の歴史は闘争の歴史だからだ。更に、人類の歴史において、人間の本質は変わっていない。故に、数千年の時を経ても兵法書が説く内容に狂いが無いのは当然といえば当然といえる。
ナポレオンは『孫子』を座右の書とし、第一次世界大戦を引き起こしたドイツのヴィルヘルム皇帝は『孫子』を知らなかった。欧州における覇権を制したのは、この『孫子』にあったとは言いすぎかもしれないが、当たらずとも遠からずである。
現在の中国を成立させたのは中国共産党だが、その指導者の多くが「孫呉の兵法」を熟知していたのではと思える。この兵法書において「敵を知り己を知れば百戦危うからず」という言葉が有名だが、これはビジネスの世界においても通用する。人間の行動原理を理解していれば、打つ手が外れるはずもない。敵が来ないことを頼みにするのではなく、敵が攻めて来られない様に備えておくのを頼みとしなければならない。敵に攻める隙を与えてはならないことだが、それはそのまま、敵の情報収集を常に怠らずということになる。
本書には武器を手にしての戦術も述べられるが、組織の維持、部隊の統率が重要と説く。そして、敵との交渉である。自軍、自国の者の憤慨、誹謗、中傷を受けようとも甘んじて敵の要求を受けなければならない時がある。しかし、それは妥協ではなく、反撃の手段であることを理解しておかねばならない。先述の中国共産党幹部の指揮にも、この兵法書の戦術論が酷似していることに気付き、言葉を失った。勝っているように敵には思わせ、反撃の好機を待っていた場面は多い。
この一書において更にぞっとするのは、太公望と文王とのやり取りの章。釣りを楽しむ太公望に軍師としての才能を見出した文王が繰り出す質問に太公望が具体的に返答するが、それが謀略に満ちていることだ。現代の中国との外交交渉において日本の外務省が太刀打ちできないのも、なるほど・・・と思える。主義主張ではなく、伝統的に中国は外交交渉のツボ、つまり謀略を心得ているのだ。
文化大革命によって中国は自国の古典を焚書した。しかし、改革開放後、日本に保存されていた中国古典などを自国に持ち帰り再評価、研究を行っていたとみるべきだ。例えば、武力によらず敵を打つ12か条、部下の内心を見破る6か条など、戦争は力と力の衝突だけではなく、知力と知力との戦いであることを知るべきだ。敵を知り己を知るためにも、孫子、呉子の兵法書は必須の書として日本人は読み進まなければならない。
尚、『孫子』に対し『呉子』は「非情の兵法」と呼ばれることからも、熟知しておくべきだろう。
令和4年(2022)7月19日
浦辺 登